【小売・店舗向け】インバウンド対策と補助金を紹介!
2019.11.14
オリンピック・パラリンピックに向け、駅や空港といった公共施設や観光スポットでは、外国語対応ができるスタッフの育成やWi-Fi環境の整備、荷物一時預かりシェアリングサービスなどのさまざまな受け入れ施策が進められています。実際に施策への取り組みや訪日旅行者が観光を楽しむ様子はメディアで多く紹介されており、日本に興味を持ってやってくる人が増加していることや、インフラ周りや旅行者を迎えるための準備が急ピッチで進んでいることがうかがえます。
これにより訪日旅行者による経済効果が大きく期待されていますが、彼らのニーズを把握しておかなければこの機会を活かすことはできません。今回はインバウンド(訪日外国人旅行、訪日旅行)の現状を踏まえながら、小売・店舗ができるインバウンド対策や課題について紹介します。
インバウンドの現状やニーズは?数字で見る訪日旅行者
国土交通省の資料「インバウンド観光の現状と動向と課題」によると、日本を訪れた外国人旅行者数は1,036万人を記録した2013年以降、4年連続で過去最高を更新し、2016年には2,404万人もの旅行者が日本を訪れています。
訪日外国人旅行者がもたらす経済効果は大きく、2016年に彼らが日本で消費した額は3兆7,476億円にも上ります。観光庁は、日本の定住人口1人当たりの年間消費額(125万円)が、外国人旅行者の消費額8人分に相当することから、人口減少による消費額の穴埋めとして訪日外国人の誘致に力を入れています。
そのため政府は2017年に「2020年の訪日外国人旅行者数を4,000万人」にするという目標を定めた観光推進基本計画を閣議決定しました。2019年6月21日には、令和元年版の観光白書が閣議決定され、インバウンドに対する各種施策・目標が定められています。これら目標値・報告からも、国を挙げてインバウンド対策に取り組もうとしている姿勢が十分にうかがえるでしょう。
<参照元:国土交通省「インバウンド観光の現状と動向と課題」>
<参照元:「平成30年度観光の状況」及び「令和元年度観光施策」(観光白書)について>
<参照元:観光庁「魅力ある観光地域づくり」>
インバウンド市場の鍵は「コト消費」にあり!
では、訪日旅行者は何を求めて日本にやってくるのでしょうか?以前は中国人旅行者を中心とした「爆買い」といった傾向が顕著でしたが、現在では商品を購入する「モノ消費」ではなく、体験や経験に価値を見出す「コト消費」に需要が集まっています。
その背景には、インターネット通販の台頭により、世界中どこにいても日本製品の購入が可能になったことが挙げられます。そこで新たに注目を集めるようになったのが、「日本を訪れなければ得られない体験」なのです。
インバウンドのコト消費の代表例は、和服を身につけて伝統的な町並みを散策、写真撮影も行える「着物体験」や、屋形船で日本食を楽しみながら、四季折々の夜景を眺められる「屋形船クルージング」など、日本の文化を体験できるものが中心です。
また、観光庁の調査では、訪日旅行者の61.4%が訪日回数2回目以上のリピーターであること、訪日回数が増えると地方を訪れる割合が高くなることが明らかになりました。彼らは初めて日本を訪れた際にはできなかった、ディープなコト体験を求めて、地方を訪れようとする傾向にあります。つまり、東京五輪の開催後も、引き続き日本ならではの体験を求める旅行者がやってくることが予測されています。
<参照元:観光庁「平成29年訪日外国人消費動向調査」>
インバウンドに対する課題は?
インバウンドの経済効果に期待が高まる一方、小売・店舗には改善すべき点がいくつかあります。
観光庁の資料「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート結果」には、訪日外国人旅行者が旅行中に困ったことに関するアンケート調査結果が掲載されています。この結果をもとに、インバウンド対策への課題を見てみましょう。
課題1. 言語の壁
調査結果によれば、「施設などのスタッフとコミュニケーションがとれない」ことが32.9%、「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」が23.6%と、訪日旅行者は言語の壁がある環境に不便さを感じています。
飲食店や小売店では注文方法やメニュー内容、商品の取り扱い方法が日本語表記のみであったり、スタッフが外国語に不慣れだったりする店舗が決して少なくありません。言語の壁を取り除くためには、英語表記のメニューやPOPを置いたり、スタッフによく使われる英語を教育したりするなどのほか、タブレットやデジタルサイネージを用いた外国語併記や、動画や画像を交えた商品の解説なども有効です。
課題2. 不十分な通信環境
観光地のリサーチ、宿泊施設や体験を行う観光スポットの予約、SNSでのシェアなど、訪日旅行者がスマートフォンを使う機会は頻繁にあります。しかし、訪日旅行者の28.7%が「無料公衆無線LAN環境」で困ったと回答しており、まだまだ日本にはWi-Fi環境が足りないことがうかがえます。特に「飲食・小売店」で利用可能な場所が少ないことに不満が見られます。
またWi-Fi環境があるにもかかわらず「利用できなかった」という声もあります。店舗では通信環境を整えるとともに、GoogleマイビジネスでWi-Fi環境があることを明記し、店内でも利用法を多言語で説明できるよう準備しておくと、訪日旅行者の来店につなげることができるでしょう。
課題3. 決済方法の少なさ
「クレジット/デビットカードの利用」(13.6%)や「ATMの利用」(6.7%)、「両替」(16.8%)など決済にまつわる不満も見られます。
特にキャッシュレス決済の導入が遅れている日本では、いまだ支払いを現金で行うことが一般的です。経済産業省の「キャッシュレス・ビジョン」によれば、2015年において日本のキャッシュレス決済導入比率は18.4%にとどまっており、韓国(89.1%)や中国(60.0%)とは大きな差が生じています。
そんな状況を危惧した日本政府は、中小店舗を中心に、キャッシュレス比率を2027年6月までに現在の20%から40%まで引き上げる計画を発表しました。その一環として、「中小店舗で販売する商品やサービスについて、キャッシュレス決済を利用した消費者には5%のポイント還元策を適用する」ことも検討しています。
同時に、現在の日本では免税制度を導入した店舗が少ないことも課題となっています。外国人旅行者が免税店で買い物をした際、免税計算や証明書類の帳票出力、パスポートの確認など手続きが生じます。さらに会計数が多い場合、対応時間が長くなり、レジが混雑することは避けられません。
しかし、免税対応ができるPOS端末などがあれば、多言語に対応できるほか、免税手続きの効率化を実現できます。キャッシュレス導入や免税手続きを目的としたインバウンド対策として、小売店ではPOS端末の導入が重要事項といえるでしょう。
<参照元:観光庁「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート結果」>
<参照元:経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」>
インバウンド対策の補助金について
インバウンド対策を行うためには、大なり小なり費用が必要となります。そんな時に活用したいのが、インバウンド対策に関する補助金、助成金制度です。
コスト面で不安を感じている店舗に対し、さまざまな自治体で費用面でのサポートを行っています。インバウンド対策を目的とした補助金、助成金制度の一部を紹介します。
◆インバウンド対応力強化支援補助金(東京都及び東京観光財団)
・東京都内において旅館業法の許可を受けて「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」を行っている施設
・都内の飲食店(外国人旅行者のための多言語対応に取組んでいる店舗)・免税店(中小企業者のみ)
・外国人旅行者の受入対応に取り組む中小企業団体・グループ
【補助額】
補助対象経費の2分の1以内
<宿泊施設・飲食店・免税店向け>
1施設/店舗あたり300万円を限度
(※無線LAN環境の整備は、1か所あたり15,000円以内、宿泊施設は1施設あたり最大50か所、飲食店・免税店は1店舗あたり最大10か所とする。)
<団体・グループ向け>
共同で実施する多言語化・人材育成について、1団体/グループあたり1,000万円を限度
【募集期間】
2019年4月1日(月曜日)から2020年3月31日(火曜日)まで
※郵送の場合、当日消印有効。
※補助金申請額が予算額に達した時点で受付を終了。受付終了の場合は、東京観光財団ホームページにて通知。
東京都及び(公財)東京観光財団では、東京都内の宿泊施設や飲食店、小売店を対象にインバウンド対応力強化を支援しています。補助対象事業は案内表示やホームページ、パンフレットなどの多言語対応、無線LAN環境の整備やキャッシュレス決済の導入など、インバウンド対応力強化のために新たに実施する事業で、先述のアンケート結果で明らかになった訪日旅行者の困りごとを解消できるきっかけになるでしょう。
<参照元:公益財団法人 東京観光財団「インバウンド対応力強化支援補助金」>
◆外国語ホームページ新規作成費用支援 助成金(台東区)
台東区内の中小企業(区内に本店所在地(法人)、事業所(個人事業者)があり、かつ区内に営業の本拠を有する中小企業。農林・漁業、風俗関連業、金融業などの業種や、宗教法人、一般社団法人、NPOなどは対象外。)が自社にとって初めての言語となる外国語のホームページを作成する場合に、経費の一部を助成。
【助成額】
助成限度額・助成率 | 経費区分 | 助成対象経費 | |
---|---|---|---|
【1】と【2】を合わせて最大10万円 | 【1】5万円(助成率:1/2以内) | 【1】ホームページ・コンテンツ制作費 | 初めて開設する外国語ホームページのコンテンツ ※制作費など ※ホームページを作成する際に必要な静止画や動画、音といった素材及びサービスの内容・中身を指します。 |
【2】5万円(助成率:1/2以内) | 【2】外国語翻訳費 | コンテンツに掲載する情報の外国語翻訳経費 |
例)制作費10万円、翻訳費6万円の場合
制作費、翻訳費それぞれ1/2が対象経費となるため、制作費が5万円、翻訳費が3万円で、合計8万円が助成金額となります。
2019年4月1日(月)~ 先着順。予算満了時点で終了。
台東区では、区内の中小企業が外国語のホームページを作成する際、経費の一部を助成しています。ホームページやコンテンツを作る場合だけでなく、コンテンツに掲載する情報の外国語翻訳を助成対象としており、観光スポットや宿泊施設をウェブサイトで探す人をターゲットに、大きなアプローチにつながりやすいというメリットがあります。特に台東区は浅草や上野など、人気観光地を有しており、インバウンド対策を行う上では必須といえるでしょう。
2019年4月1日から募集が開始されているものの、予算満了時点で終了することが明示されています。申請の取り下げがあった場合には追加募集を行う場合もありますが、早めに申し込むことをおすすめします。
<参照元:公益財団法人 台東区産業振興事業団>
◆観光振興事業(観光地の「まちあるき」の満足度向上整備支援事業) 補助金(観光庁)
訪日外国人旅行者の来訪が特に多い又はその見込みがある市区町村に係る観光地において、公共交通機関の駅などから個々の観光スポットに至るまでの散策エリアにおける「まちあるき」の満足度の向上を図るため、訪日外国人旅行者のニーズが特に高い取組などを一体的に進める事業に要する経費の一部を補助するもの。
【補助率】
補助対象経費の2分の1以内
【応募受付期間】
整備計画公募期間: 令和元年7月8日(月)~9月30日(月)17時(必着)
要望書受付期間: 令和元年9月~令和2年1月31日(金)17時(必着)
観光庁は訪日外国人旅行者の満足度を上げる目的から、多言語対応や無料Wi-Fiの整備、小売・飲食店のキャッシュレス決済対応を始めとするインバウンド対策を強化するためのサポートを行っています。
幅広い範囲でのサポートだけでなく、災害の発生といった非常時の電源装置も補助対象となっています。訪日旅行者にとって、「慣れない国で災害に遭遇する」ということは、大きな不安です。さらにそこでスマートフォンの電源が切れてしまえば、「何が起こっているのか」、「復帰の目処は立っているのか」といった情報を得られません。
そんな時でも通常時と同じようにネットワークを確保し、情報を迅速に得られる体制を整えられるのは大きなメリットといえるでしょう。
<参照元:国土交通省 観光庁>
まとめ〜インバウンド対策を行い、世界中の人を歓迎しよう〜
日本では国際的なイベントを控え、インバウンドへの対策が急がれています。今後も増加が見込まれている訪日旅行者を顧客として取り込むために、彼らが言語やサービス、会計処理においてストレスを感じない環境作りが求められているのです。小売・店舗は事前に対策をし、この機会を活かしましょう。
コスト面でなかなかインバウンド対策に踏み切れない方も、まずはインバウンドへの補助金制度を調べるところから始めてみてはいかがでしょうか。