店舗はキャッシュレスを導入すべきか?メリット、デメリットを解説

執筆者
WORKSTYLE SHIFT 編集部

2019.03.29

店舗はキャッシュレスを導入すべきか?メリット、デメリットを解説売上アップ

買い物や食事をする際、交通系ICカードやクレジットカードなど、現金以外で代金を支払った経験がある人も多いのではないでしょうか。海外では現金を持たずに買い物をするキャッシュレス文化が浸透しており、近年は日本でも対応している店舗やサービスが増加。政府の後押しもあって、今後さらにキャッシュレス化は普及していくことが予想されます。

キャッシュレスを取り巻く環境変化と課題、今後の展望。そしてキャッシュレスにはどのような種類があるか、本記事で解説していきます。

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キャッシュレスが普及する背景

キャッシュレス化の背景

キャッシュレスとは、料金の支払いなどの決済を現金のやり取りなしに行うことです。口座振替や小切手の使用などもキャッシュレスに含まれますが、私たちの生活の中で身近なキャッシュレスといえば、クレジットカードやデビッドカード、交通系ICカードといった各種カード類。最近はそのカードすら持たず、スマートフォンだけで決済できるアプリも普及が進んでいます。

またレジを通さずに決済できるコンビニ「Amazon Go」が米シアトルにオープンし、開店早々世界中で注目の的になりました。日本でも現金の支払いができない“完全キャッシュレス化”の飲食店「大江戸てんや」の営業開始や、還元率の高いキャッシュバックキャンペーンを打ち出した電子決済アプリ「PayPay」が話題になるなど、キャッシュレスへの関心が高まっています。

キャッシュレスの普及率。日本は世界から遅れをとる

経済産業省が2017年に発表したデータによると、2015年度の民間消費支出におけるキャッシュレス決済の割合は、韓国が54%、中国が55%、アメリカが41%。これに対し日本は18%にとどまっていました。2016年には20%に上昇していますが、それでも諸外国と比べると、日本にはまだまだキャッシュレスの文化が浸透していないことがわかります。

<参照元:経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」

日本でキャッシュレスが普及しない3つの理由

なぜ日本は海外と比べてキャッシュレス決済の普及が遅れているのでしょうか? そこには日本ならではの社会的背景や価値観などさまざまな理由が挙げられます。3つの要因を解説します。

現金に対する信頼度が非常に高い
日本の紙幣(銀行券)は高度な印刷技術で作られているため、複製が難しく偽札が横行していません。また、海外と比べて圧倒的に治安が良く、盗難被害のリスクも低いため、現金を持ち歩くことに抵抗がない人がとても多いのです。現金が手元にないと不安になる人も多く、キャッシュレスへの抵抗感が強いと言えます。

金融インフラが整っている
現金が足りなくなったらコンビニにあるATMに立ち寄って、銀行口座から引き出すということが日常的に行えるため、高額な買い物でなければ現金決済の方が払いやすいという背景があり、必要なときに必要な分だけ現金を引き出す傾向にあります。

店舗側の事情
キャッシュレスが普及しない要因には、店舗側の事情も挙げられます。一番大きいのは、キャッシュレス決済を可能にするためのコストがかかること。クレジットカードや電子マネーを使うキャッシュレスでの支払いには、対応する専用端末の導入が必要です。機器の導入だけでなく、都度発生するランニングコストも店舗側の負担になります。また、クレジットカードを使用する際に発生する数%の決済手数料もネックとなっており、特に個人で運営しているような小規模の店舗では、キャッシュレス化に二の足を踏むことも多いのではないでしょうか。

政府がキャッシュレスを後押しする理由

政府によるキャッシュレス化の後押し

遅れている日本のキャッシュレス化への対策として、政府は「FinTech(フィンテック)」の普及に力を入れ始めています。FinTechとは、Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語。金融サービスと情報技術を結びつけた革新的な動きのことを指し、キャッシュレス決済もFinTechに含まれます。2017年6月に閣議決定した成長戦略「未来投資戦略」の中でも「今後10年間(2027年6月まで)に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す」と明言しています。

また、経済産業省は小売店やサービス業者に対し「IT導入補助金」を交付する取り組みを始めました。中小企業・小規模事業者等の生産性向上を支援する目的で、ITツール(ソフトウェア、サービスなど)の導入にかかる経費の一部が補助される制度です。IT導入支援事業者の登録申請、交付申請を行い、審査を通過すれば補助金を受け取ることができます。

それではなぜ日本政府がここまでキャッシュレス化に力を入れているのか、その理由を見ていきましょう。

インバウンド消費拡大に向けて

政府は東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向けて、訪日外国人観光客を4,000万人にまで増やすとともに、消費額を8兆円まで伸ばすという目標を掲げています。インバウンド客に購買意欲があっても、現金で買い物をする際に、通貨交換というステップが必要となるため、キャッシュレス非対応では機会損失を招きかねません。そこで国を挙げてのキャッシュレス導入を広く呼び掛けています。

消費税増税による懸念

2019年10月の消費税引き上げのタイミングで消費者の買い控えが増え、景気の冷え込みが懸念されています。その対策として、一定の条件を満たす対象店舗でクレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済をすると、購入額の5%をポイントなどで還元する、という施策を打ち出しました。期間は2019年10月の増税から2020年の東京五輪前までと一時的な施策ではありますが、これを機に国内でもキャッシュレス決済による消費の浸透が期待されています。

店舗がキャッシュレスを導入するメリット、デメリット

キャッシュレス導入のメリットとデメリット

消費者がキャッシュレス決済を利用する主なメリットとしては、会計時に財布の中の現金を計算する手間が省ける、利用状況をアプリなどで管理しやすいといった点が挙げられます。では、キャッシュレスを導入する店舗側にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

キャッシュレス導入のメリット

会計ミス防止
客から受け取った現金の数え間違い、つり銭の間違いがなくなります。決済端末をPOSレジと連動させるソフトウェアを導入すれば、より確実に会計ミスを防止できます。

業務効率化、レジの省人化
キャッシュレス決済なら、預かった現金を数える、つり銭を計算して渡す、といった現金の受け渡しが不要。カードやスマートフォンを決済端末にかざしたり、サインをしたりするだけで決済が完了するので、決済にかかる時間を短縮できます。レジにスタッフがいる時間を減らし、両替やつり銭の補充といった作業も不要になるので、空いた時間を接客や品出しなど他の業務にあてることができ効率化が期待できます。

管理コストの低減
キャッシュレス化することでお金のやり取りがデータとして自動的に記録されます。キャッシュレス導入前は、レジ締めの際、毎回数字が合わず複数のスタッフで数え直していた店舗も、導入後はレジ締めの時間が短縮され人件費削減に寄与します。

客単価アップ
クレジットカードやポストペイ(後払い)型の電子マネーでの決済は、手持ちの現金が少ないときでも高額な商品を購入したいときに重宝されます。そのため、現金決済と比べて客単価が高くなる傾向があると言われています。

キャッシュレス導入のデメリット

・初期費用がかかる
クレジットカードや電子マネーでの支払いを受け付けるには専用の決済端末が必要です。磁気式や非接触式、バーコード式などさまざまな読み取り方式があり、幅広く対応するためには複数の端末の購入・レンタルが必要になる場合があります。

・決済手数料がかかる
クレジットカードや電子マネーを利用するために、店舗側はカード会社と加盟店契約を結ぶ必要があります。その前段階で、カード会社は対象店舗を審査し、売り上げの少ない店舗では契約に至らないこともあります。審査を通過し契約できたとしても、決済額に応じて平均3~5%ほどの加盟店手数料が発生し、毎回差し引かれることになります。売上の少ない小規模な店舗では導入が難しいと言えます。

キャッシュレス決済の種類

キャッシュレス決済の種類

ここまで「キャッシュレス決済」と紹介してきましたが、現在普及している主なキャッシュレス決済にはさまざまな種類があります。1つひとつの特徴を把握し、店舗に導入する際の参考にしてみてください。

クレジットカード
店舗やネットショップで決済後、利用代金が後日口座から引き落としされるカード。一括、分割、リボ払いなど、支払い方法を選べるのが特徴です。JCBが2017年に行った調査では、日本人のクレジットカード保有率は約85%であり、最も一般的に利用されているキャッシュレス決済方法と言えます。

デビットカード
決済後、カードと紐づいた口座から利用料金が即時引き落とされます。利用者はカードリーダーWEBサイトやスマートフォンアプリと連携することで、リアルタイムで利用状況が把握でき、予算残高以上の使い過ぎを防ぐことができます。クレジットカードと異なり、利用者には審査なしで発行し、店舗にとっても簡単な加盟店審査で契約に進めます。

ICカード・電子マネー
ICチップが内蔵されており、読み取り端末にタッチするだけで決済が完了するカード。代表的なものは「Suica(スイカ)」や「PASMO(パスモ)」などの交通系、「WAON(ワオン)」や「nanaco(ナナコ)」などの流通系サービスです。現金でチャージ(入金)することで繰り返し使えますが、クレジット機能を持たせることでチャージが不要になるカードもあります。

決済アプリ

クレジットカードや電子マネーを登録しておくことで、スマートフォンでの決済が可能になるアプリ。「非接触型決済(非接触IC決済)」と「QRコード決済」の大きく2つに分けられます。

【非接触型決済】
ICカードのように端末にかざして決済するタイプ。スマートフォンでは「Apple Pay」「Google Pay」「おサイフケータイ」が代表で、アプリを開かず手軽に利用できます。

【QRコード決済】
一般的なところでは、支払いの際にスマホの画面に表示させたQRコードを端末に読み取らせて決済するタイプです。「Origami Pay」をはじめ「LINE Pay」「PayPay」など、近年続々と参入が進んでいます。QRコード決済の方が店舗側の導入コストは安いと言われており、今後急速に普及が進むと考えられています。

キャッシュレスに対応していない店舗の今後

キャッシュレス未対応店舗の今後

日本クレジット協会が2018年に行なった調査によると、キャッシュレス決済を使用している一般消費者の約4割、家計簿アプリ利用者の約6割が、日常消費シーン(飲食店やスーパーなど)でキャッシュレス決済非対応の店を避ける傾向があるとしていました。この結果を踏まえ、政府によるキャッシュレス推進や利用者の拡大・普及を考えると、今後キャッシュレスに対応していない店舗では早急なキャッシュレス化の検討が必要だと言えます。

店舗のデジタル化は避けられない!?

ここまでキャッシュレス化によるメリットなどを紹介してきましたが、多様な決済方法・消費者ニーズに対応するためにも、店舗のデジタル化は重要な課題となってくるでしょう。人件費の削減につながることはもちろん、流通データや購買履歴データなどを電子的に管理することができるようになれば、より高度なマーケティングを期待できるでしょう。政府による「補助金制度」が打ち出された今、店舗へのIT導入を考えてみてはいかがでしょうか。

まとめ

日本では長らく普及が進んでいなかったキャッシュレスですが、インバウンドの需要増、消費増税などの影響を受け、近年は政府も普及拡大に本腰を入れて取り組む姿勢を見せています。現金決済に加えキャッシュレス決済にも対応することで、店舗側は購入者層の拡大や売上アップ、業務効率化につなげることが期待できます。今後ますます拡大が予想されるキャッシュレス。決済手段に新しい選択肢が加わることは、利用者の立場からすれば喜ばしいことです。ユーザーの利便性向上につながるキャッシュレス決済、この機会に導入を検討してみてはいかがでしょう。